社長宅の住み込みお掃除係に任命されました
夜の会社には何かが出る……
 静まりかえった夜のオフィスで寝るのなんて、初めてだ。何もないのに、なんだか怖くなる。

オバケでも出そう。

そんなことを一度考えてしまうと、怖くて眠れなくなる。

ううん、そんなはずない!

私は自分に言い聞かせて、目を閉じる。

けれど、やっぱりなかなか寝付けない。


すると……

カツ、カツ、カツ、カツ……

誰もいないはずの廊下を歩く足音がする。

誰!?

オバケも嫌だけど、泥棒とかはもっと嫌。

私は息を殺して、その足音が遠ざかることを祈った。


けれどその足音は、遠ざかるどころか、どんどん近づいてくる。


なんで?

鍵は?

まさか社員?


それはそれで困ったことになる。

忘れ物を取りに戻った社員なら、そのまま帰ってくれればそれでいい。

仮眠室なんて、みんな存在すら覚えてないはず。


私は、祈るようにその足音を聞いていた。


カツ、カツ、カツ、カツ……


なんで?

どんどん近づいて来る。

会議室に忘れ物?

わざわざ夜中に?


そりゃ、会議室にボールペンを忘れたり、資料を忘れたりする人はいる。でも、それなら、わざわざ夜中に戻って来なくても、明日の朝で十分なはず。

カツ……

足音が止まったと思ったら、ガチャッとドアが開いた。仮眠室の!

廊下の明かりが、真っ暗な仮眠室内に差し込む。

「うわっ!!」

驚いたその人は、後ずさって、ガタッとドアにぶつかった。

「ってぇ……」

ドアノブにぶつけたのか、体の側面、太ももの付け根辺りをさすっている。


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