翼のない鳥
始まり

始まりは、憂鬱と共に



「今日からこのクラスの一員となる琴川 律だ。じゃー琴川、自己紹介しろ。」

担任の間延びした声が教室に響く。

体にまとわりつく視線が不愉快でたまらない。


見るな見るな見るな。


そうは思っても、どうにもならないものはしょうがない。

嫌悪感を押し隠して口を開く。


「琴川、律。」
「・・・え、それだけ?」
「・・・」


自己紹介、とはどこまで言えばいいんだろうか。
最低限名前さえ言っておけばいいんじゃないのか?


よろしくしようと思っていない相手に対して、それ以上言うこともないし。

不愛想、冷血、冷めてる、人間らしくない。
今までそんな評価をもらってきたけれど、好きなようにとらえればいいと思う。

所詮は他人。

関わりもないし、持つ気もない。


だったら、そんな奴等に何をどう思われようとどうでもいいじゃないか。

・・・って、こんなところなんだろうな。



「あ、ああーじゃあ、琴川の席はあそこな。」

指さされたのは、窓際の一番後ろ。


うん、良い席だ。

四方のうち二面は壁。

右隣と前には人がいるが、まあそこはしょうがない。


コツ、コツ、コツ・・・



白い床に冷たい音を響かせて移動する。



視線が、気持ち悪い。



―――カタン。



空のカバンを机に下げて、腰を下ろした。

それを見届けた担任が連絡事項を伝達していく。

そこでようやく、視線から解放された。


まあまだいくつかはこちらに向いているが、大分マシ。




一気に音が戻った教室の様子なんて気にもせず、頬杖をついて窓の外を眺めた。






この学園に足を運んだのは、今日が二度目。

前に来たときは、満開の花を腕いっぱいに抱えていた桜の木はすでに緑に染まっている。



・・・桜、か。



長いこと見ていなかった、綺麗な、日本の花。

これからはきっと、毎年見ることになるんだろうな。




けど、なぜだろう。



これからうんざりするほど見ることになるだろうに、なぜか“今年”の桜は特別なもののように思えて。


散ってしまったことが、寂しいとさえ感じる。







4月、始業式。


どうやら僕は今日から、高校2年生になるようだ。





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