翼のない鳥
「これでホームルームを終わる。9時から始業式だから遅れずに体育館に行くように。」
礼、と誰かが言って、まばらに頭が下がった。
9時から、始業式、か。
行くの、めんどくさいなあ。
・・・サボろうかな。
別にいいだろう、始業式に1人くらい出席しなくったって。
授業だって、まともに受ける気はない。
まあ一応、出るには出るけど。
なんだかなあ・・・
憂鬱だ。
その原因は分かり切っているけれども。
『律。』
甘い声が、恋しい。
チラリ、と黒板を見る。
壁を二枚越えた先にいるはずのあの子に思いを馳せる。
大丈夫だろうか。
困っていないかな。
イジメられていないだろうか。
変な男に群がられていないだろうか。
心配は、尽きない。
今からでも、顔を見に行こうかな。
動きそうになる足を必死に抑える。
我慢だ。
僕が介入してばかりではいけない。
あの子のためにもならないし、僕のためにもならない。
だから、今までよりも少しだけ、過保護になるのを抑えようと決意したばかりだ。
・・・早くも揺らぎそうだが。
ハア、と息をつくと、机にふっと影がかかった。