背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
早く時間よ過ぎてくれ…… 悠麻
 ホテルの和食処の個室に入った。

 見慣れたテーブルをそっと撫でる。俺がデザインしたものだ。

「相手の方より先に来れて良かったわね」


 母は、落ち着かないようで、ドアの隙間からチラチラと廊下の先を見ている。


「まあまあ母さん落ち着きなさい。見合いするのは悠麻なのだから」


 そう言う親父も、新調したと思われるスーツの襟やらネクタイを気にしている。


「はあー」

 俺は、ついため息をもらしてしまった。


「いいわね、悠麻。あなた、見た目は完璧なんだから紳士的にふるまうのよ」

「はいはい」


 そんな事をしたって、結婚する気なんて無いぞ、と言いたいが、面倒臭いので辞めておく。


「失礼します。お連れ様がお見えです」

 扉の外の中居の声に、父と母の背筋が伸びた。


 スラっとしたおじさんと、母に負けないくらい着飾ったおばさん。
 そして着物姿の女性が入ってきた。


 そうは言っても、見合いの相手の顔くらいは気になる。

 ゆっくりと、着物姿の女性に目を向ける。

 うん。
 確かに綺麗な人だ。和服がよく似合い、スタイルもいい。


 彼女も俺の方を見た。
 そりゃ見合いの相手だ、顔くらいは気になるだろう。

 俺は、控えめにほほ笑んだ。
 完璧だろ?

 彼女も小さく笑みを見せた。

 うわっ。

 こりゃ完璧な女だな。
 多分仕事も出来る。
 男から見りゃ高嶺の花ってとこだろう?


 だが、残念。
 俺はこういう女が苦手だ。まあ、一晩遊ぶくらいならいいが、さすがに見合い相手となりゃそうはいかないだろう?



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