溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
症例5
症例5

 憧れの和也くんの彼女の座についてから、早二週間。

 わたしは幸せいっぱいの日々を送っているはず……はずなんだけど……。

「はぁ」

 午後休診の木曜日。

 患者さんが帰った後、受付カウンターで片付けをしていたわたしは、思わずため息をもらした。

「ねえ、どうかしたの?」

「あ、いえ。すみません。なんでもありません」

 慌てて取り繕うけれど、真鍋さんにはお見通しだ。

 真鍋さんと君島先生には色々と相談に乗ってもらっていたので、和也くんとつき合うことになってすぐに報告をした。

「どうせ、中村先生のことでしょ? 今度はなにがあったの?」

「真鍋さんには隠しごとはできませんね。実は……全然会えていないんです」

 彼女になったからといって、いつも一緒にいられるわけないのはわかっている。

 けれどこの二週間で会えたのはたった一回。しかも時間にして四十分だ。仕事終わりに和也くんが家の近くまで会いにきてくれて、車の中でおしゃべりしただけ。

 すぐに彼に呼び出しが来て、あっという間に行ってしまった。キスさえしていない。

「まあ、これまでと同じと言えば同じなんだけど……それはさみしいわね。つき合いはじめの頃って毎日でも会いたいものよね」

「わたしは和也くんとなら何年経っても毎日会いたいですけど」

「あ~はいはい。話を戻そうか」

 真鍋さんは呆れ顔だ。

「えーと、今彼がどれだけ大変なのかっていうのは、わかっているつもりなんです。だから会えないのは仕方ないなって」

 和也くんの実家の中村総合病院は彼のおじいさんが設立した病院だ。この辺りでもかなり大きな病院だ。

 和也くんのお姉さんである昌美さんが事務局長を務め、そのご主人さんである医師の健太郎さんとふたりで跡を継ぐことになっていた。
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