黒王子の溺愛
あなたの喜ぶ顔が見たい
リビングで、柾樹の帰りを待つ美桜は、時計が21時を過ぎたのを見て、本当にお忙しいんだな…と思う。

そこへ、カチャ、とドアの開いた音がした。
美桜は、パタパタっとスリッパの音をさせ、玄関に向かった。

「柾樹さん、おかえりなさいませ。」
「ああ…」

靴を脱いで、カバンを持ったまま、柾樹はダイニングに向かう。
そこで、鼻をくん…とさせた。

「何か、作ったのか?」
「はい。お食事、準備しますね。」

くるりと身体を翻して、キッチンに向かおうとした美桜の腕を、柾樹が掴んだ。
「食事は要らない。済ませてきたんだ。」

「あ…。…ですよね、この時間…ですもの。お風呂、入られますか?」
「風呂も自分のペースで入る。美桜、なにもしなくていい、と言わなかったか。」

「無理、…しなくていい、とは言って頂きましたけど…。無理はしてません。」

やはり、余計なことだったのね…。

「そうか…」
そう言って、美桜の腕から離れる手が、美桜には少し、淋しかった。

美桜から離れた柾樹は、リビングのテーブルに、カバンから書類とパソコンを出して、仕事を始めた。
居場所がなくて、美桜は柾樹に声をかける。

「あの…お仕事のお邪魔になっても、いけないので、お部屋に戻ってますね。」

「美桜…新婚さんごっこがしたいのなら、帰りなさい。」
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