ズルくてもいいから抱きしめて。
過去の恋と現在の恋。

姫乃の場合①

「お〜い、起きろ〜」

「んん〜〜〜まだ寝たい、、、」

布団をかぶると樹さんの匂いがして、まるで抱きしめられてるみたい。

この匂い落ち着く、、、

「へぇ〜起きないんだ〜。じゃあ、お前の分の朝食は俺が食べようかな。」

「ダメ!!起きるから待って!!」

私は急いで飛び起きた。

樹さんと初めて結ばれた日から、私たちはお互いの家を行き来するようになり、休日はどちらかの家に居ることが多くなった。

「いただきます!」

席に着いて、樹さんが作ってくれた朝食を食べ始めた。

「ん〜!いつ食べても美味しい!」

「ハハッ!朝から良い食べっぷりだな。」

樹さんとお付き合いするようになって、スキルの高さに驚かされることばかりだった。

仕事ができることは知っていたけれど、まさか家事まで完璧とは思わなかったな。

掃除が行き届いた綺麗な部屋、手際良く作る美味しい料理、、、

完璧過ぎて、自分の適当さが恥ずかしくなる。

「いつも作ってもらってばっかりで、ごめんなさい。私は何もしてあげられてないのに、、、」

「俺は好きでやってるから気にするな。それに、、、俺は可愛い姫乃をいっぱい貰ってるから十分だよ。」

そう言うと、樹さんはニヤッと意地悪く笑った。

「あっ、、、朝からそういうこと言わないで!」

「俺はそんなつもりで言ってないんだけどな〜姫乃のエッチ。」

「もう!樹さんはすぐそうやって意地悪する!」

「ごめん、ごめん。そんなに怒るなよ〜早く支度しようぜ!今日は“shin”の個展行くんだろ?」

「うん!ずっとこの日を待ってたから、今から楽しみなの!」

以前、元彼の師匠だった高木さんから写真家“shin”の個展の情報を聞き、ずっとこの日を待ちわびていた。

これでもし“shin”に会えることができたら、出版業界初の“shin”の写真集に一歩近付ける。

フォトコンテストで賞を総なめにしていながら、表舞台には一度も出て来たことがない。

度々話題に上がっていながら、その正体は未だ謎のベールに包まれている。

「もし今日会えたとして、交渉に難航しそうだな。」

「う〜ん、、、でも、室長の樹さんが一緒なら心強いよ。」

私たちは期待と不安が入り混じりながら、“shin”の個展へと向かった。
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