独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む
第一章:未来への約束
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あの日も、雪がちらつくような寒い日だった。

「ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております」

葵は満面の笑みを浮かべ、帰っていくお客様が見えなくなるまでお辞儀する。

「葵ちゃんの笑顔は本当に素敵よね。おばちゃんいつも気持ちがいいわ~って思ってるのよ」

「えっ、そうですか。嬉しいです……!」

(そうやって言ってもらえると、やる気が出てくるな)

近くでお菓子を選んでいた常連客の田中さんが優しい言葉をかけてくれ、
張り切ってお菓子を包装していると……。

「あおい、須和さんから連絡があった。最中の詰め合わせ三セット、急ぎだ」

「ん、了解」

暖簾から顔を出した父はぶっきらぼうに言い放ち、戻っていく。

(お父さん、大分話してくれるようになったな。このまま認めてもらえるように頑張ろう)

父、利光とまともに話せるようになったのは、数か月前のこと。
大学に進学しないことを大反対され、店の手伝い以外の時間は一切口をきいてもらえない一年過ごした。
それを見かねた母、由紀子の必死の説得のかいがあり、ようやく以前の関係に修復してきたところだ。

(うわ、もうこんな時間。もうすぐ須和さん来ちゃう、早くしないと……!)

“須和さん”は長らく天馬堂をご贔屓してくれている常連さんだ。
なんでも、この店の傍にある、でっかいビルを持つ社長さんらしい。
葵は一度も会ったことはなく、いつも秘書の加瀬さんに用意したものをお渡しする。
予想するに、きっと本人は“自分の父親と変わらないおじさん”だ。
堅物の父親と仲がいいらしいので、同じくらいの年頃に決まっている。

(よし、準備完了。あとはビニール袋に入れて……)

カラカラ……。

店の扉が開く音が聞こえ、葵は弾かれるようにして顔を上げた。

「いらっしゃいま……」

「こんにちは、先ほど電話をした須和ですけど」

(え、須和さん……?)
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