別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
「ケーキの打合せの予約をしていた如月ですけども」

「如月様、お待ちしておりました。ご来店ありがとうございます。さぁこちらへどうぞ」

いつものように岬オーナーが応対して打合せ室へと彼女を案内し始めた。岬オーナーには渚さんの妹さんだということは伝えてあったので、ふたりは渚さんの話を少し交わしながら私の少し前を歩く。

「それではここからはパティシエールの佐倉が担当させていただきますので、よろしくお願いいたします」

岬オーナーは紅茶と茶菓子を目の前のテーブルに置くとその場を離れた。

「この度はご指名いただきありがとうございました。パティシエールの佐倉凛子と申します」

ふたりきりになり、まずは挨拶をと思い目の前の席に座る彼女に名刺を差し出す。

「こちらこそ快く引き受けてくださりありがとうございます。渚の妹の莉奈(りな)と言います。凛子さんが作った桜のケーキを食べて私もすっかりファンになって。だから親友の結婚祝いにぜひとも贈りたいと思ったんです」

笑みを浮かべながらこちらの目を真っ直ぐにみて莉奈さんが言う。そんな風に思ってくれることはパティシエールとしてとても光栄なことだ。

「ありがとうございます」

彼女が纏う柔らかい雰囲気に緊張の糸がほぐれ頬が緩む。

「それでは打合せを始めましょうか」

「はい。お願いします」

和やかな雰囲気で打合せが始まった。莉奈さんの中ですでに具体的なイメージがあったので、それをスケッチしながら色使いや花の種類、構成を決めていった。

ケーキを贈る相手の好みの色や花などをリサーチ済みだった彼女。嬉しそうに友だちの話をする莉奈さんを見てとても思いやりのある素敵な女性だと思った。
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