ありきたりの恋の話ですが、忘れられない恋です
「素敵なお庭だね」
「金かけてるからな」
3年のブランクは大きく、この後の会話の内容が思いつかなくて料理が運ばれるまでお互い無言で庭を眺めていた。
手の込んだお料理の美味しさに気が緩み、お互いの3年間についての踏み込んだ会話は避けて、当たり障りのない会話で盛り上がった。
もっぱらお互いの兄弟や昔話だったが、楽しい時間だった。
亜久里さんと料理を作ってくださった旦那さんにお礼を述べてお店を出たら、晶兄が私のマンションまで送るという。だが、住む場所を知られることに抵抗があり、やんわりと断りを入れるが、なぜだか、住所を知っていると言う。
まぁ、犯人の見当はつくので、お土産の件と一緒に文句を言ってやると固く決心をした。
帰りは、助手席に座るよう促され、仕方なく運転する晶兄の隣に座ったが、近い距離に緊張が続き、先程まで楽しい時間を過ごしたというのに、狭い密閉空間での沈黙は息苦しく、早く着いてほしいと願うのだった。
いざ着いてしまうと別れがたいと思うのは彼も同じなのか、指を絡めてきた。
「ノンちゃん、後もう少しだけ…誰のものにもならないでいて」
切ない声で懇願し、絡めた指先に唇をのせた。
「晶兄?」
「今度こそ、間違えないから…」
そう言い残し、晶兄は帰っていった。