ありきたりの恋の話ですが、忘れられない恋です

女性の視線が繋いでいる手から私の顔に移り、首を傾げてた。どうも、晶兄の知り合いのお店らしく、既婚者の彼が手を繋いで女性と来店したから不思議に思ったのだろう。

慌てて、手を振り解こうと彼の手と格闘したが、逆に指を絡めてぎゅっと握られてしまった。

その一部始終を、女性に生暖かい目で見守られていた。

「どうやら晶斗の方がお熱のようね。ふふふ…晶斗の姉の亜久里です」

「違うんです。あっ、私、篠原 望愛と言います。晶斗さんは、兄の友人でして、妹のように接していただいています」

晶兄の表情をちらっと見た亜久里さんは、可哀想な子を見るような表情をしていた気がする。

「あら、そうなの⁈ほんとバカな弟だけど、嫌いにならないであげてね」

「姉さん」

強い口調の晶兄に、一度、首をすくめた亜久里さんは、気にしない素振りで「一番奥の部屋使っていいわよ。お料理は、おまかせでいいかしら?」

「あぁ」

答えるや否、繋いだ手のまま、亜久里さんの横を通り、連れて行かれた奥の部屋から見える庭は、枯れ流れが奥まで続き、雪見灯篭に暖色のライトが当たって、情緒があり、別世界に来たようで見入っていた。

その背後に立つ晶兄が窓ガラスに映り、振り返るタイミングがわからなくなる。
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