秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
動き出した時間
 いろいろあった初出勤の次の日。

 今朝も余裕をもって家を出た私は、本社ビルの前で壁を背に立っている人物の姿を目にして驚きの声を上げた。

「どうして……」

「君を待ってた」

 穏やかな声色でそう言った相良さんが、こちらに近づいてくる。スーツの上から黒のコートに身を包む彼の口もとから、白い息が立ち上った。それを冷たい風が一瞬で散らす。

 今日は一段と気温が低い。朝のニュースでも雪が降るかもしれないと言っていた。こんな寒い中を、いったいいつから待っていてくれたのだろう。

 思案に暮れる私の手を、恵麻が引っ張って揺らした。

「ママのしってるひと?」

 きょとんとする恵麻に、私の鼓動が大きく跳ねる。

 その言葉で恵麻の存在に気がついたのか、驚いた様子の相良さんが、「ママ?」と恵麻に目線を落とした。

 私は胸がどきどき張り詰めていくのを感じる。
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