むせ返るような、畳の深緑の香り。

 普段は勉強机や本棚があるはずの広い和室には、彼女と練習用の小さい筝以外は何もなかった。

 白い紋白蝶の着物を身に纏った彼女が、おもむろに筝を爪弾いて遊んでいる後ろ姿。

 下を向いている為か、背中の半ばまでの漆黒の髪が、彼女を覆い尽くすように広がっていて。


 人が来た気配を感じ取ったのだろう。

 唐突に筝の音色が止まり、彼女は後ろを振り向こうとゆっくりと顔を上げる。

 人形のように整っているその顔には喜びも驚きも無く、どちらかといえば不快という名の悪感情。


 練習を邪魔された故だろうか。

 常人なら気付かない程度に眉を顰めていたのを、僕は気付いていた。


「……どうしたんです、次期当主。何か用事でもあるの?」


 小夜。
 僕の未来の義妹であり、弟の婚約者でもある少女だった。

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