白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
ハッピーエンドなエピローグ


 後日。なんやかんや風邪が長引いているエドの元へ改めてお見舞いに来ると、見たことのない屈強な男の人がいた。

 歴連の戦士と言わんばかりの鋭い眼光。白髪交じりの短髪。浅黒い肌。もう三十歳若ければ、ぜひ盗賊の頭にでもなって令嬢のアバンチュールなロマンスを叶えていただきたかったワイルドダンディ。

 でもそんな人が王城のど真ん中にいると、やっぱりちょっと怖いわけで。

 部屋の入り口で固まっていると、ベッドの上のエドが私を見て「グフフ」と笑った。

「リイナ、大丈夫だよ。この人が例の料理長だから」
「へ?」

 何回かまばたきして落ち着いて見れば、見事なコック帽に金色のバッジまで付いている。ワイルドダンディは片手に盆を持ったまま胸に手を当て、私に一礼してくれた。あ、笑い皺がセクシーで可愛い。

「お初にお目にかかります。リイナ様。いつもショウがお世話になっております」
「あ、え……こちらこそ……?」

 いきなりショウの名前が出てきて私が反応に困っていると、エドが言う。

「もうリイナが彼と仲良くしても嫉妬しないから大丈夫だよ、多分。当分は謹慎と保護の意味で城の一室に軟禁させてもらっているけど、盗賊の残党が捕まり次第、また厨房に戻ってもらうつもりだから。そうしたら、また適度に節度を保って仲良くしていいからね。僕が勘違いしないてい程度に」

 なんかハチャメチャ嫉妬しそうな気がするのは、私の気のせいでしょうか? 
 今度はなんやかんや言い訳つけて、私が軟禁されないでしょうね?

 まぁ、そんなこと言ったら「閉じ込めてもらいたいなら早く言ってよ。いつでも準備は出来ているよ」とか言いかねないので、絶対口が裂けても言わないのだが。

 私が自身の推察に呆れ返っていると、料理長が改めて頭を下げる。

「先日の件、ショウの代わりに礼を述べさせて下さい。本当に慈悲深き配慮、ありがとうございました。この恩を私は生涯忘れることはありません」

「んな大袈裟な」

 慌てて近づき、頭を上げるよう促すと、料理長は目に涙を浮かべていた。
 うわ、反則。ダンディの涙とか、なにこれときめく。

「リイナ。ニヤけているようだけど、僕の涙で良ければいくらでも見せてあげるよ?」

「早くも嫉妬しないでせめて体重戻してから言って下さい」

 バッサリ切り捨てると、白豚がションボリとするけれど。
 料理長が苦笑する。

「リイナ様はお話以上に手厳しい方ですね。エドワード殿下が肥えてしまったのは、リイナ様のためだと言うのに」

「そんなつまらない話しなくていいから」

 私が目を丸くする一方、エドが鋭く制止の声をかける。だけど料理長は「まぁまぁ」と楽しげに口を動かした。

「リイナ様が食の細かった頃に、少しでも栄養のあるものをと殿下直々に試食して、お口に合うものを探し回ったのですよ。私も付き合いましてね。あの頃は私も賄い要らずでした」

 えーと……私にこういう言い方をするってことは、この人は私が霊人ってこと知らないのかな? 

 エドに目配せすると、私の疑問を読み取ってくれたのか「うん」と頷いて。その間も、料理長は懐かしそうに話す。

「本当にリイナ様が色々な物を食べるようになってくれて、私も嬉しく思っておりました。どんなに体調を崩されましても、以前は本当に野菜と穀物しかお口にされないので……せめてお菓子でもとあの頃は必死でございました」

 あーあれだ。雑誌で読んだことある。菜食主義者というやつだ。そうか、『リイナ』は本当に博愛主義をそこまで徹底してたのか……。

 改めて『リイナ=キャンベル』の崇高さに息を呑んでいると、エドが咳払いをした。

「料理長、君はそんな昔話をするためにここに来たのかな?」

「いえいえ、滅相もございません」

 そう言って、料理長は懐から葉っぱに巻かれた三角の物を取り出す。

「謹慎中とはいえ、私は一日一回は面会を許していただいておりまして……ショウからリイナ様へ預かって参りました」
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