契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
戸惑いの夜
 夢の中で物音を聞いた気がしてベッドの中の渚の意識が浮上した。
 誰かが帰って来たような気配。夢と現実の間を行ったり来たりしながら、渚はそれを父だと思った。
 小さい頃から渚にとって父とはこの物音だった。
 夜中にトイレに起きることが多い渚は、こうやって夜中に帰ってくる父の気配を感じることがたびたびあった。
 忙しくて渚の起きている時間にはほとんど帰って来られない父と一緒に過ごす時間はあまりなかったけれど、こうやって帰ってきた後は必ず渚の部屋に来て寝ている渚の頭を撫でてくれるのだ。
 渚は布団にくるまったまま、父が来るのを待っている。でもいつまで待っても父は来なかった。

 おかしいな。

 そこで渚の意識は完全に現実の世界へ戻る。むくりと起き上がって部屋の中を見回した。
 そうだ、ここは実家ではなく和臣のマンションだ。さらにいうと自分はもう小さな子供ではない。
 時計を確認すると時刻は午前一時を過ぎたところだった。
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