雲居の神子たち
それぞれの思い
お父さんは仕事、志学は学校、お兄さんと尊は何やら用事があるからと出かけて行った。

「お父さんも、今日みたいな日にまで仕事をしなくてもいいのにね」
女3人残った家で、お茶を入れながらお母さんが愚痴る。

「そんなこと言うものではないわ。ぜひ父さんにって言ってくださるお仕事だもの、行かないのは失礼にあたるわ」
優しい白蓮は言うけれど、やはりお母さんは不満そう。

まあね、もしかしたら今夜で白蓮に会えなくなるかもしれないんだから、家族で過ごしたい気持ちはわかる。

「大丈夫よ、兄さんたちが何とかしてくれるから」
笑いながらお母さんの腕をとる白蓮。

すごいなあ。
白蓮だって、自分の身に迫る危機を理解しているはずなのに。
それでも笑顔でお母さんを励ませるのは精神的に強い人だから。
私だったら取り乱さない自信はない。
今だって、もし、もしも、自分が白蓮の身代わりになることがあればその時は深山に逃げ出そうと思っている。
私には帰る場所があるから平気な振りがしていられるだけ。
白蓮とは根本的なところで違う。
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