光を掴んだその先に。




「いや違うな……こうかな……、え、なんかバランスおかしくない…?えーっと……」



見つめられてる、ぜったい見つめられてる…。


窓際のチェアに腰かけて、じっとこちらを見ているであろう男は私の動きに笑っているはず。

あれから数分経っても未だに苦戦してる私。



「で、できた…」



それは到底“正解”とは言えなかった。

ジャケットを掛ける位置、スラックスを掛ける位置はきちんと決められているはずなのに、どうにもバランスが悪い。


……かたむいてる。

これじゃあ型崩れしちゃう。



「ごめん……こういうの、やったことなくて…」



誕生日だから少しでもラクしてほしかったのに。

厄介事に巻き込まれてるって聞いたから、ほんのちょっとでも頼ってほしかったのに。

頼まれて嬉しかったのに…。



「使用人に頼んでくるっ」


「絃、待て」



スッと立ち上がった那岐は私の隣に立った。

不恰好なハンガーラックを見つめ、くつくつ笑う。



「…昔はおぶられた赤ん坊だったのにな」



ボソッとつぶやかれた言葉は上手く聞き取れなくて。

「え…?」と聞き返したつもりが、頭を撫でてくれる動きによって続けられることはなく。



「…ありがとよ。これでいい」



懐かしむように瞳を伏せていたから、それ以上踏み込むこともしないほうがいい気がして。


「ありがとう」と放たれた音が何よりも優しかったから。



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