隣の部屋の新人くん
笑い声
月曜日。

食堂で牛丼を食べていると、入り口から賑やかな1年目の集団が来た。

当然その中に坂口くんの姿もある。

わざわざ昼休み、みんなで合わせるんだ。
そういうことするのも、今だけだろうなあ。

私はそんな彼らと目を合わさないように牛丼を食べ続ける。

「岡本さん」

坂口くんの声。

「お疲れ様です」

ゆっくり顔を上げると、すぐ側に立ってニッと笑ってる。

「佳弥から返事、ありました?」

本人は小声で言ってるつもりのようだけど、小声が大きい。

「ないよ」

私はそう言って牛丼を食べ続ける。

「え、破局?破局じゃないですか、それ」
「縁起でもないこと言わないでよ」
「自然消滅ってやつですよ、それ」

私が睨みつけると、やっと坂口くんは黙った。
坂口くんは楽しそうな顔をしている。

他人の不幸は蜜の味なんだろうなあ。

彼の背後で他の1年目の子たちがまだ立ち止まっていた。

「みんな待ってんじゃない?」

そう言うと、初めて坂口くんは後ろを確認して、「先行ってて」と言った。

え?と思ってると、目の前の椅子に座る。

「牛丼、美味いですか」

私は口の中にあるものを飲み込む。

「美味しいけど、なに?」
「東京のOLって、カーディガン肩にかけて、こうカードケース首から下げて、三人くらいでランチ行くイメージでした」

私の反応を楽しんでるような顔。

こうやって天井低い食堂で一人牛丼食べてるイメージじゃなかったらしい。

「残念だったね」

私はそう言って水を飲む。
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