鬼の棲む街
縁は異なもの



「キャァァ」


逃げなきゃって思った時には既に脇道に引っ張り込まれていて

心許ない傘なんていつ手放したのか濡れてなかった頭もあっという間にずぶ濡れ


「ほらほら、歩けよ」


両腕をガッチリと掴まれて背中はもう一人が押している


「・・・、やめっ、離してっ」


もがいてみるのに益々掴まれた腕はギリギリと力が入るし

雨の所為で薄暗くシンとした辺りに身体は震えが止まらない


「震えちゃって可愛い〜」

「三人で優しくしてやっから」

「ヤベ、良い匂い〜」


どう考えても無傷ではいられない

バシャバシャと水溜りを歩く足音だけが響いて


悔しくて涙が出そうになった



刹那


周りの空気が一瞬で凍った

気が、した



「「「・・・っ」」」


薄暗い路地の先

いつからそこに居たのか大きなシルエットが見えた


「楽しそうなことしてるじゃねぇか」


低くて冷たいその声に背中にゾワリと冷たさが走る



「「「っ」」」



息を飲む三人の呼吸以外、雨の音まで止んだかのように消えた


私の周りの男達からは、さっきまでの緩い雰囲気は消えていて

依然掴まれたままの腕からは声の主への“恐怖”さえ伝わってくる


私はその恐怖が伝染したのか“助けて”と言いたい口も開かない


「置いていけ」


この空間を一瞬で支配した男の二言目に私を掴んでいた手が離された


そして、


背後から聞こえてきた複数の足音に


「「「っ」」」


驚く間もなく三人の気配が消えた


だからといって私の置かれた状況は変わらない


ガタガタと震える身体に視界はグラリと揺れて



・・・逃げなきゃ



頭を過ったそれを最後に



私の記憶はプツリと切れた








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