運命なんて信じない
熱愛報道と私の居場所
賢介さんと外泊してしまった翌日。
夕方仕事から帰宅した私は、おばさまに『もう外泊はダメよ』と釘を刺された。
きっと心配して待っていてくれたのだろうと申し訳ない気持ちになった私は、せめてもの罪滅ぼしにと夕食づくりの手伝いを申し出た。

「せっかく琴子ちゃんが手伝ってくれるんだから、今日は餃子にするわね」
台所でエプロンを着けたおばさまが準備を始める。

「餃子ですか?」
「そう。私の餃子は美味しいのよ」

へえー。
随分庶民の味だなと思っていると、おばさまが私を振り返った。

「母が小さい頃に作ってくれたの。私にとっては、お袋の味なのよ」
「そうなんですね」
母を知らずに育った私には不思議な感覚だ。

おばさまの作る餃子はとてもシンプルだった。
材料は白菜と挽肉とショウガ。隠し味に味噌。
コツは白菜を細かく切って水気をギュッと絞る事。
皮も市販の物で、至ってフツーの餃子だ。

「さあ、焼くわよ」

ホットプレートいっぱいに並べられた餃子が水蒸気に蒸され、ジュウジュウと音を立てる。

「うわー、美味そうだね」
ちょうど帰宅した賢介さんも寄ってきた。

「もうすぐ出来るから、着替えてきなさい。お父さんももうじき帰るから」
なんだかとても、おばさまが嬉しそうだ。

程なくおじさまも帰宅して、4人で餃子を囲むこととなった。
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