蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない~
契約結婚の全てを知って…


 帰りのタクシーの中、柚瑠木(ゆるぎ)さんは黙って私の手を握っています。もちろん私も彼の手を握り返していますが、それでも彼の不安が少しでも和らげればいいと思って。
 だけど、私も柚瑠木さんに聞きたいこともあって……

「どうして、私があの場所にいることが分かったのですか?」

 私は柚瑠木さんに何も伝えず杏凛(あんり)さんの病院についていき、匡介(きょうすけ)さんから話を聞いてそのままあの交差点に行きました。なのに柚瑠木さんはここにいる私を見つけて迎えに来てくれたんです。

「仕事から帰るといつも出迎えてくれる月菜(つきな)さんの姿が無く、テーブルの上に貴女のスマホが置かれてままになっていて……」

 いつもよりも小さな話し声、そして私を握る柚瑠木さんの力がまた強くなって。

「すぐに香津美(かつみ)さんに連絡をしましたが通じなくて。聖壱に話を聞くと、彼女は料理教室を休んでいたと。それであの二人が鏡谷(かがみや) 匡介(きょうすけ)の連絡先を調べてくれたんです。それで……」

「そうだったのですか。すみません、私も思い付きで行動してしまって……」

 私は時々、周りが見えなくなることがあると怒られる時もあって。こんなに柚瑠木さんに心配をかけてしまったことを反省しました。
 ですが彼は……

「覚悟していたつもりだったのに、月菜さんのいない暗い部屋を見たら僕は頭の中が真っ白になって……もの凄く怖くなったんです。」


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