7歳の侯爵夫人
「コニー…」
気をとり直したフィリップがコンスタンスに近づこうとする。
だがコンスタンスは、余計にオレリアンの背中に貼り付き、身を固くした。

「コニー、フィリップだ。まさか、私がわからないのか?」
フィリップが訝しげにコンスタンスを覗き込む。
だがコンスタンスはオレリアンの背中にギュッとしがみついたまま。
オレリアンは妻の頭を撫で、優しく囁いた。
「…コニー、フィリップ王太子殿下だ。ご挨拶しなさい」

(フィリップ…、王太子殿下…?)
コンスタンスは目の前の男を見上げた。
彼女にとってフィリップ王太子と言えば、1つ年上の8歳の少年だ。
12年分の記憶がないコンスタンスにとっては、時々王宮で一緒に遊んだ幼馴染であり、先日婚約者になったばかりの少年のイメージしかない。
でもたしかに目の前の男をよく見てみれば、幼馴染の面影が残っているような…?

「…フィル…?」
コンスタンスは訝し気にそう尋ねた。
「ああそうだ。フィルと呼んでくれるのか?コニー」
フィリップが若干嬉しそうに手を伸ばす。
するとコンスタンスはオレリアンの背中から離れ、前に進み出た。

「コニー?」
オレリアンは慌ててコンスタンスの手を掴もうとしたが、彼女はそのまま進み出て、美しいカーテシーの姿勢をとった。

コンスタンスは王太子と婚約した翌日からの記憶を失っているが、その失った12年間の記憶をある程度は教えてもらって理解している。
王太子が隣国の王女と婚約するため、自分との婚約が解消されたことも。
そのために王家の薦めでオレリアンと結婚したことも。
そして、王太子がもうすぐ結婚することも。
だから、今言うべきことはー。

コンスタンスは、フィリップに向かってにっこり笑うとこう言った。

「王太子殿下、ご結婚おめでとうございます」
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