7歳の侯爵夫人

5

「ああ」
フィリップはなんとかそう返事をしたが、呆けたようにコンスタンスを凝視したままだ。
自分の知っている元婚約者と違い過ぎて、面食らっているのだろう。

そんなフィリップを、コンスタンスは可愛らしく小首を傾げ、不思議そうに見上げる。
フィリップは狼狽え、「説明しろ」とばかりにオレリアンに目をやった。

これまでのやりとりで、オレリアンはコンスタンスの記憶喪失を隠し通すのは無理だと悟った。
コンスタンスが姿を見せた以上、真実を告げねばなるまい。

「コニーは事故で頭を打ち、12年分の記憶を失っているのです。7歳の…、殿下とのご婚約が整った翌日の記憶から…」
「…なんだと?」
フィリップが目を見開く。

「ではコニーは10年間私の婚約者であったことも、お妃教育を受けていたことも覚えていないのか?」
「もちろん覚えておりません」
「その後…、婚約解消したことも?」
「事実としてルーデル公爵より伝えられてはいますが、全く記憶には無いようです」
「では、今のコニーの中身は…」
「7歳の少女です」
「7歳…」

俄かには信じられないような話だが、フィリップは先程からのコンスタンスの子供っぽい話し方や仕草に、ようやく納得がいったようだった。
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