7歳の侯爵夫人
「それからね、お兄様。私明日、ヒース侯爵様を訪ねようと思うの」
「…オレリアンを?」
「ええ」

エリアスは目を見開いて妹を見た。
たしかにオレリアンはあれ以来姿を現さないが、まさか記憶の戻らない妹が自分から会いに行くと言い出すとは、思いもしなかったのである。

「この2ヶ月余りの私の態度は、夫である侯爵様に対してあまりにも酷いものだったと思うの。だから、謝りたいと思うんです」
「そうだな…」
仕方のないこととは言え、花を届けて去って行くオレリアンの背中を見送るのは切なかった。
とうとう姿を現さなくなった彼がどれほど傷ついているのかと思うと、エリアスとしても胸が痛い。

「結婚してから1年近く別居していたことは、お父様からお聞きしました。侯爵様にとっても、私との結婚は決して嬉しいものではなかったのでしょう?それなのに、あの方はああして毎日私にお花を贈ってくださっていたのですよね?」

オレリアンは2ヶ月もの間毎日花を贈ってくれていた。
どうでもいい相手にならそんなことはしないはずと、今のコンスタンスにならわかる。

「たしかに…、結婚当初のおまえに対するオレリアンの態度は決して誠実だと言えるものではなかった。だが、おまえが事故に遭ってから彼は見違えるほど変わった。本当に慈しみ、大事にしていた。それだけは、わかってやって欲しい」
「…ええ。明日、侯爵様をお訪ねして、これからのこともお話したいと思います。お兄様、ついて来てくださる?」
「ああ、もちろん」

ようやく前を向き始めたコンスタンスは、王妃に会う前にオレリアンに会いたい…、素直にそう思った。
彼が今何を考え、これからどうしたいのか聞きたいと思ったのだ。
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