7歳の侯爵夫人
こころ、近づく

1

「また飲んでいたのか?」
グラスを片手に窓辺で座り込んでいる主人を見て、ダレルは眉間に皺を寄せた。
オレリアンの足元には酒瓶が転がっている。

「月見酒だ。心配するな。勤務には差し支えない」
出て行けとばかりに鷹揚に片手を振る主人に、ダレルはツカツカと歩み寄った。
そして、主人の手からグラスを取り上げた。

「もうやめておけ。過ぎれば体を壊す」
「放っといてくれ。月を愛でているだけだ」
「そんなところに座り込んでみっともないぞ、ヒース侯爵。近衛騎士の誇りはどこへ行った?」
「ハッ、近衛騎士の誇りか!」

オレリアンは嘲るように唇の端を歪めた。
たしかに、王族を守る近衛騎士に選ばれたことは、名誉であり、誇りであった。
だが今、その王族によって運命を弄ばれているようにも思う。

普段のオレリアンは、酒は非番の前日…、しかも嗜む程度にしか飲まない。
生真面目な騎士である彼は、剣を持つ腕が鈍るからと、騎士仲間で飲む時もほとんどアルコールを口にしなかった。
それなのに、あの、ルーデル公爵邸を訪ねなくなった日から、オレリアンは毎晩酒を飲むようになった。
しかも、こうして潰れそうなほど飲むのだ。

あれほどストイックだった主人の今の醜態を見て、ダレルはため息をつく。
そして、手に持っていた封書を手渡した。

「…手紙ですよ、旦那様」
「…手紙?こんな夜更けに?」

訝しげに差出人の名前を見たオレリアンは、酒ですわった目を、驚いたように見開いた。
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