7歳の侯爵夫人
「美味しい」と伝えると彼女は嬉しそうに微笑み、暖かな陽射しの中、2人は和やかな午後を過ごした。

(もしかしたら…、王太子殿下とも、こんな時間を過ごしていたのかもしれないな)
突然そんな考えが浮かび、オレリアンはそのバカバカしさに苦笑した。
王太子とは10年間も婚約者同士だったのだ。
当然公的な付き合いや厳しい教育ばかりではなく、穏やかに交流する時間だってあっただろう。
一緒に庭を散歩したり、彼女の手料理を振る舞う機会など、数限りなくあったに違いない。
それをいちいち嫉妬するとは、自分はなんて面倒臭い男なのだろう。

「明日は王宮へ行かれる日ですよね?」
オレリアンはモヤモヤを吹き払うように話題を変えた。
明日はいよいよ、コンスタンスが王妃に会いに行く日である。

「ええ、まぁ…」
コンスタンスは困ったように曖昧に笑い、目を伏せた。
正直王妃に会うのも、王宮に近づくのも気が重い。

そんな彼女を見つめ、逆にオレリアンは気を強く持った。
彼女が決して王宮に上がるのを喜んではいないと確認出来たからだ。

「私は任務についておりますが、上司から許可が下りたので、エントランスまで貴女をお迎えに上がりますね」
「本当ですか?」
途端に彼女がパーッと顔を輝かせる。
「母や兄はついてきてくれますけど、それでも本当は少し不安だったのです。でも侯爵様がいてくださるなら心強いですわ」

「私は貴女を守る、貴女の騎士ですから」
真っ直ぐに彼女を見つめてそう言うと、コンスタンスは恥ずかしそうに頬を染め、はにかむように小さく笑った。
< 258 / 342 >

この作品をシェア

pagetop