トライアングル 下

ーーーある日、私の父の元、つまり防衛庁にアメリカの国防総省から一本の連絡が入るの。それが事の始まりだった、、、ーーー


近年、アメリカの国内で人や、物体の喪失事件が相次いでいた。
FBIが調査に乗り出すと、その事件の起きている周辺で未確認の浮遊物体の目撃情報や喪失現場周辺から
強力な磁場のようなエネルギーが検出された。
浮遊物体や磁場の原因は不明。
事件は暗礁に乗り上げたかに思えた。
ところがここ数週、その磁場と同じエネルギーが日本の上空から感知された。
連絡を受けた日本の防衛庁が日本各地を調べると、
ここ数週、アメリカと同様な喪失事件が数件発生している事が確認された。
しかもその一番多く確認されたのが、ここ!
泉姫校区だった。

「そこで、一般人に化けて秘密裏に捜査を行うエキスパートの公安調査庁の職員を派遣する事になったのたけど、何しろ謎の多い事。怪しまれずに地域の調査が出来、
且つ、いざとなればダイレクトに父(防衛庁)を動かす事の出来る人物として、私に声が掛かった。」
防衛庁長官の娘?公安調査室のエージェント?
今まで知らなかった梨緒の突拍子もない暴露。
それでも女神という存在、目の前に映る宇宙船を目の当たりにしている亮輔はどこかしっくりときた。

「特に今回調査に携わっている"審理室"というのは公安調査庁の中でも特別な部署で、法律では裁けない組織や団体。指導者に対し、国防を脅かすと判断した場合、直接裁きを与える事が出来る。」
公安調査庁は基本的にはテロ行為や破壊活動の防止。
反社会的な意思を持った者への調査、スパイ行為を主な仕事としている。
大きい事件では某心理教の教祖の潜伏先を暴き出したり。
その為、調査した事を報告する事はできても、警察官のような逮捕行為や逮捕状請求が行えない。
いわば民間人に化けて潜伏するだけの隠密部隊。
しかし、中には法律の手の届かない所で
警察も裁判官も裁けないような事例も存在する。
そんな時の為に存在するのが、"公安調査庁 審理室"だ。

「公安内でも"裁定"者、と呼ばれるような部署だからこそ、軍部と繋がった私は適任だんだんでしょ。」
警察も法律も届かない相手へ、調査して直接裁きを下す。
泉姫地区出身で地の利の詳しい梨緒。
軍部を直接動かす力を持つ、長官の父。
FBIすら調査している難事件。
謎の相手に対して警戒されないように調査し、迅速に対応するには確かに梨緒が適任といえよう。

「で、調査している間に一人の怪しい女性を発見してね。そして円盤のような飛行物体も。その円盤は遥か上空を漂うように飛んでいたのだけど、その女性と会話でもするかのように動いていた。FBIの報告と同じ。あとは物体の喪失事例を掴み、検挙または対処するのみ。」
「そんな矢先だった。2人とあの人(女神)がグラウンドで野球をしているのを目撃したのは。」
思えば梨緒が部室で見せてくれた笑顔。普段通りに接してくれていた笑顔の裏に
その時にはすでにこんな大きな事を抱え、
それでも亮輔や祐介にすら全く気付かれないまま自然と接してくれていた。
それを思うと、ただ欲望の赴くままに女神の言葉に身を委ねていた自分ちっぽけさ。
戦いに夢中になっていた自分の愚かさ、軽率さが憎くて堪らない。
「いいえ。亮輔達が悪いんじゃない!私は知っていたのに!物体や人の喪失は聞いていたのに!それを考えれば瞬間的に移動できたり、物を飛ばせる事なんて予想は出来たはず!
それに泉姫周辺での出没情報。それは裏を返せば私の正体の方が先に気付かれていた。さらには父の情報までも。そうなるとこの施設の情報がバレていて、ここまで移動出来てしまう事まで分かったはずなのに!
分かれば止めることも、守る事も出来たはずなのに!!
私が気付いてさえいれば!!」
梨緒の悲痛の叫び。それが亮輔の胸に突き刺さる。
俺たちが女神の誘いに乗りさえしなければ、、、!!



そんな2人に追い打ちをかけるように
直接脳に響くような声が聞こえてくる。
「地球人のみなさん。こんにちは。
わらわ達は遠く642光年離れた、あなた達の言う"ベテルギウス"という星からやって来ました。
わらわ達は諸事情で自分達の星を無くしてしまい、
どこか移り住む星はないかと探した末に、生命の住める環境を見つけた。それがこの地球でした。
この地球の環境は素晴らしい。
わらわ達はこの星に移住する事を決めました。
しかし、地球人はどうやら外の星からの来訪者を好ましく思わないようです。
そこで決めました!今から2時間後。ある街を破壊します。わらわ達が望むのは絶滅か屈服。
それ以外ないと思って下さい。」
それと同時にモニターに映っている宇宙船の中央部分が開き、
綺麗な緑色の光を放ちながら
何やらエネルギーのようなものを溜めだした。



「俺たちのせいで、、、。」
お互い好きな事を言い合う戦い。勝負がつかない戦い。
戦いを続けていればお互い譲れないだけに
行く末は頭に血が上ってエスカレートする。
おそらく、どういう戦い方をしていてもお互いが納得するまでなら結果は同じだっただろう。
互いが傷付け合って、結局は最後、同じステージで女神の思惑どおり。
完全にハメられた!
全ては女神の掌の上。敗北感。
そして、その通りに歩んだ道のりで生んでしまったものが
目の前で現実を突きつける。
「町が、、、。」
「地球が、、、。」
亮輔は全ての状況を理解し、目の前に置かれている地球のピンチに
絶望でその場で崩れ落ちる。
おそらくこのテレパシーの声を信じている人は殆どいないだろう。
客観的に見て、突拍子もなさ過ぎて、よく分からない。
理解したとしても、どこで何が、どんな状況になっているのか分からない事には信じようがない。
もし、近くでこの宇宙船を目撃している人が居たとしても
それがこのメッセージとすぐには結びつかないし
メッセージ自体の信憑性もあやしい。
となれば、女神はまず信憑性を高める為に侵略にあたって力を誇示する必要がある。
その為には見せしめが、必要。
その為の亮輔たちの町の破壊。
完璧に理にかなっている。
全地球人への脅迫と見せしめ。
2時間後には必ずこの町はなくなる。
思い出の詰まった町が、、、。
そして地球人はどうなってしまうのか、、、
捕虜、、、。
奴隷、、、。
絶滅、、、。
考えれば考える程、責任感の重圧で押しつぶされそうになり、
頭をグーっと抱え、身を縮める。
頭が張り裂けそうに痛い。
胃もキリキリする。
今にも発狂をしておかしくなってしまいそうだ。

しかし、そういう時にいつも助けてくれるのが梨緒だった。
「亮輔!切り替えよう!やっちゃった事は仕方ない。
これからどうするかが肝心だよ!」

仕方ないないって、、、こんな状況にしてしまったのは俺たちなのに。
そんな簡単に割り切れるなんて、、、
それに、これからどうするか?しかも2時間後にはタイムアウト。
こんな状況、どうやったら打破出来る!?
そう否定的に心で言い放っていると、
ふと、おかしくなってしまいそうな自分が
前向きに考えている事に気付く。
、、、やるしかないのか!
亮輔はムクッと立ち上がり、
優しく梨緒を見つめる。
「そうか、、、いつもこうやって支えられてきたんだな。」
この梨緒の優しさに。
気持ちに。どうしても答えたくなった。
「やってやるよ!俺がなんとかしてやる!」



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