どうにもこうにも~出会い編~
 真っ暗闇の底の方から自分の意識がふっと沸き上がり知覚がはたらき始めた。見慣れないカーテンの隙間から漏れる朝日の光、なじみのないシーツの感触、背中に感じる人の体温…。そうだ、昨夜石原さんと食事をして、それからホテルの部屋をとって、それから…―――。

 はっとして目を見開くと、ベッドの上で横になりながら石原さんを後ろから抱いていることに気づいた。彼女はまだすやすやと寝息を立てている。

枕元のデジタル時計を見やると、まだ6時37分を示していた。この時間なら会社には間に合う。だが有休を数時間取ってゆっくり彼女と寝ていてもいいかもしれない。…いや、会社に行こう。真面目な性分なのである。俺は彼女を起こさないように、そっとベッドから這い出た。


 髭のシェービングと着替えを済ませ、ドレッサーテーブルに『先に出ます。また連絡します。 西島』というメモを残した。まだ寝ている彼女の頭に手を置き、「行ってきますね」と囁いた。



もう少し一緒に寝ていたいと思う気持ちを抑えながら、その場をあとにした。

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