茨ちゃんは勘違い
刻、既に遅しと書いて
白石百合絵の朝はごく普通のものである。

前夜の「くまのサンドバック」ボコボコのインパクトが刷り込まれた読者には凄惨な朝を想像させたのかもしれないが、寝起きが悪い訳では無いし、目覚まし時計が生け贄になる事も無い。

母が用意したトーストと目玉焼きの匂いで目覚め、歯を磨き、顔を洗う。

私立の規律により派手な格好は出来ないが、適度にお化粧をして、制服に着替え、母親と飼い猫に「おはよう」の挨拶をする。

母親とは高校生活に慣れそうなのかとか、勉強はついていけそうなのかとか、帰りにキャットフードを買ってきてとか、他愛も無い話をして、時間的に余裕のある内に家を出る。

「いってきまーす」
「はーい。気を付けて行くのよー」

何の変哲も無い朝。

百合絵も玄関を出て、学校に着くまではそう思っていた。
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