偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
2.「ひとめ惚れをしたと言えば、信じるか?」
『――なんでそんな展開になるんだ? まさか恋に落ちたのか?』


「落ちてないし、ひとめ惚れもしていません」


『じゃあどうして、結婚なんて話になる?』


「だから今、説明したでしょ」


出口の見えない会話を、もう三十分近く延々と繰り返している。

怒涛の展開のお見合いの後、帰宅した。

慣れ親しんだ部屋に戻り、ホッと小さく息を吐いた途端、タイミングを見計らったかのように貴臣くんから電話がかかってきた。

栗本副社長が蘭子さんに今日の出来事について電話をしたらしい。

雇用主に真っ先に連絡する辺りが癪に障る。

寝耳に水の出来事に驚いた蘭子さんは、事実関係をなぜか貴臣くんに確認したそうだ。

そのため、今、貴臣くんに状況説明をする羽目に陥っている。

どんどん外堀を埋められていると感じるのは気のせいだろうか。


『藍のご両親に栗本副社長が連絡をしたいそうだぞ』


「どうして!?」


『結婚を考えている女性の親に挨拶するのは当たり前だろ』


「それを言うなら、普通は雇用主より先に両親に連絡するものじゃないの?」


『是枝家と斎田家が旧知の仲だと知っているからじゃないか? なにぶん急な話なのでお前の両親に反対された際は力になってほしいと頼まれたと姉貴が話してたぞ』


絶対にあの人はそんなしおらしい考えなんてもっていない。

私を追い詰めたいだけだ。

ただ一般企業の会社員である両親に突然連絡されなかったのは不幸中の幸いかもしれない。

もしそんな電話がかかってきたら驚きで母は卒倒しそうだ。
< 32 / 208 >

この作品をシェア

pagetop