幼馴染 × 社長 × スパダリ
疑い

「萌絵、会社には一緒の車で行くだろ?」


涼ちゃんは、自分で車を運転して、会社まで行っている。
以前は、専属の運転手がいたそうだが、運転が好きな涼ちゃんは、それを断り自分で車を運転する。
涼ちゃんと一緒に出社は、なんとなく気が引ける。

皆に、何を言われるか分からない。

会社に行くときは、涼ちゃんにお願いして別々に出社することにした。


「私は、電車で行くことにします。」
「…そうか、わかった。無理にとは、言わないよ。」

いつものように、電車で会社に向かうが、いつも通りでないこともあった。
駅で電車を待っていると、後ろでヒソヒソと、声が聞こえてくる。

『あの人…星空きららの…』

あれだけマスコミが来たのだから、噂されても仕方のない事かも知れない。

(…聞こえないふりをしよう…)


会社に出勤すると、同じ秘書課の、美香が駆け寄って来た。


「おはよう、萌絵。突然で驚いたけど、結婚おめでとう。」

「美香、…ありがとう。でも全く実感も無いんだよね。」


昨日、二階堂社長が、婚姻届けを出しに行く騒ぎは、会社中の噂になったようだ。
当然、美香はそれで知っていたのだろう。


すると、美香は急に私の手を引いて、誰もいない給湯室に連れて行った。
私が驚いた顔をすると、美香は人差し指を口に当てて、“シー”っと周りを見渡しながら言う。


「萌絵、大きな声で言えないのだけど…、小柳さんの様子が少し気になってね…」

「小柳さん?どうしたの?」


すると、少し溜息をついた美香が話し始めた。
「萌絵は、知らなかったのかも知れないけど…、小柳さんと二階堂社長は、恋人同士だろうって、みんなが噂してたんだよ。」

「…そ…そうなんだ…確かにお似合いだよね…」


努めて無理な笑顔を作った。
心が何故かズーンと重くなり、心臓に何かが刺さった衝撃がある。


「萌絵、何言っているの!二階堂社長の奥様は萌絵でしょ。お似合いだなんて、吞気な事を言わないの…」


美香は少し怒った顔をする。
確かに、涼ちゃんが、今まで誰かと付き合っていたとしても、不思議ではない。
しかも、涼ちゃんの、一番近くにいた小柳さんと、付き合っていたと言われても、頷ける気がする。

…ではなぜ、涼ちゃんは私と結婚するなんて、言ったのだろうか。
本当に、昔の約束のため、だけなのだろうか。


もしかしたら…子供の頃の約束を守るために、結婚はしたけれど、涼ちゃんの好きな女性は、他にいるのかも知れない。


だとしたら、涼ちゃんも小柳さんが好きなのかも…。
私は二人にとって、邪魔なだけの人間ということになる。

どうしても、いろいろな事を考えてしまう。


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