辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

第三話 エレナ

■ 第三話 エレナ

 シルク、天鵞絨(ビロード)、サテン、チュール……

 サリーシャは目の前に広げられる豪華な生地の数々に呆気に取られていた。床から天井まで一面に設えられた棚には、ありとあらゆる素材が揃っており、溢れんばかりの生地や糸が収納されている。一部は棚から飛び出してこぼれ落ちそうになっていた。
 それもそのはず。ここはタイタリア王国の王宮内にある、裁縫所だ。王族の衣裳を作るために、国中から上質な生地や糸、そして腕の良い針子が集められている。

「サリーシャ様、どれか気になったものはありましたか?」
「ええっと、どれも素敵ですわ」
「それは知っております。そうではなくって、サリーシャ様がお好きなものはどれですか?」

 ずいっと迫ってくる見た目は可愛らしいご令嬢──王太子婚約者のエレナの迫力に、サリーシャは思わず一歩後ずさった。子爵令嬢であるエレナは、フィリップ殿下と婚約したことから、結婚式までの一年間、王宮に滞在して未来の王妃となるための勉強をしている。
 つい一時間ほど前に王宮にセシリオと共に到着したサリーシャは、なぜか陛下や殿下と謁見するでもなく、着いた早々にエレナに捕まって裁縫所へと連行された。

 そこで明かされたのは、思いがけない申し出だった。サリーシャへの褒賞に、王太子の結婚式の舞踏会で着るドレスを、王太子妃エレナとお揃いでと言うのだ。
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