関係に名前を付けたがらない私たち
5章

*飛んで火にいる夏の虫

 ふしだらに始まった私と優希の関係は順調(?)に継続していた。

 どこで耕平に遭遇するか分からないし、デリ嬢の送迎なる仕事をしている彼は、恐らくこの界隈のラブホテルならどこでも出没する可能性が高い。
 飛んで火にいる夏の虫ではないけれど、敵(?)の陣地にのこのこ潜入するのは自殺行為と言わざるを得ない。
 かなり危険なことをしている自覚はあった。

 優希は8月末まではこの関係を容認してくれているとはいっても、耕平は何も知らない。

 さすがにラブホテルで修羅場は避けたい。
 いや、場所は関係なく修羅場そのものを避けたいというのが本音ではあるけれど。

 昔から耕平は鷹揚というか放任主義な人だった。
 束縛も干渉もない、最近は特にその傾向が強くなっている。前はあんなに寂しく感じていたのに、今では耕平の放任主義を良いことに、私と優希はわりと頻度高めで会っていた。

罪悪感はなかった。こうなったのは、耕平のせいだ。耕平が私を顧みないからこうなったんだ。

 とはいえ発覚を恐れる小心さもあった。
修羅場は避けたいと思いつつ、結局、密会できる場所が他にないから、こそこそとラブホテルを利用した。

「あいぼん、何でラブホ来るときいつも忍びみたいなの?」

「忍び?」

「なんか背後を気にしながら、凄い勢いで部屋ボタン押すし、部屋に入るまで目が殺気立ってるんだけど」

 そんなつもりはなかっただけに……、いや、そんなことないか。
 少しはそういう自覚はあったけれど、まさか殺気立った目で、くノ一ばりの動きをしていたとは。しかもそれを勘付かれていたなんて。

「一生の不覚にござる」

 にんにんのポーズをとると、わけがわからないと言わんばかりの優希から本気で心配されてしまった。
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