関係に名前を付けたがらない私たち
 一通り、私を食べ尽くした優希は、最初に予告した通り、私をお風呂場に連行し、美容師の素晴らしいシャンプーテクで髪を丁寧に洗い、綺麗にブローまでしてくれた。

「優希、なんか色々テクニシャン!」

「なんだよそれ」

 くすくす笑う優希は、私をくるりと正面に向き直らせて、ぎゅうっと力強く抱きしめてきた。

「あいぼんさ」と耳元で囁かれた声が、ほんの少し低くて、何となくだけど、これから真面目な話を切り出されるような予感があった。

 もしかしたら「本気になるなよ」みたいな、そういった牽制かな。だったらそれは少し寂しいかも。と思いつつ、身構える。

「なに?」

「別れてよ」

「え? 別れる?」

「彼氏と別れて俺と付き合ってよ」

 てっきり、割り切った関係を求められているものだと思っていたのに、意外な告白に面食らった。目を白黒させる私は、

「本気で言ってる?」

 上目を向けたのだけど。

「遊びならわざわざこんな面倒なこと言わなくない?」

 それもそうか。

 けれど私はすぐさま答えられなかった。
 でも優希は急かすわけでもなく「猶予くらいはあげるよ。夏が終わるまでに返事して」

「夏の終わりって具体的にいつまで」

「じゃあ8月末までね。それまでに返事もらえなかったら、あいぼんとは単なる友達ってことで納得する」

 大人だな、この人。

 というのが素直な感想だった。
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