【SR】秘密
眩暈

……・……・……・……



「桜ちゃん、送りの時間だよ。起きて」


あたしは低い声に揺さぶられて重い瞼をゆっくりと押し上げた。


「痛…………。」


軽い頭痛に頭を抑え、辺りを見回す。


閉店後の店内に、酔い潰れた名も知らない女の子達が所狭しと転がっている。


最近はもう見慣れた風景。


一年前は終礼をきちんと行っていたけど、客が増えると共にそれは失くなっていった。


次々と辞めて行く子に、新しく入店する子。


入れ代わりの早いこの業界で、名前を覚えるのは至難の技だった。


あたしが入店した当時からいるのはあと二人だけ。


「桜ちゃん、早く着替えて。
送りの車、もう出ちゃうよ」


店から無料で出る送りの車。


ほとんどがバイトの運転手の持つ車で、同じ地域の数人が乗って、一人ずつ家の近くに降ろされる。


…………やばい!これに乗り遅れたらタクシーになっちゃう!


慌ててフィッティングルームも兼ねた待機室に入り込む。


白いドレスを脱ぎ捨て、いつものスキニーのデニムに黒いカットソーに着替える。


ギリギリセーフで車に滑りこんだ。


…………まだ、頭がズキズキする……。


お酒は、あたしには合わないのかな。


だいぶ慣れたつもりでいたけど……。
< 9 / 52 >

この作品をシェア

pagetop