過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
戸惑いの新婚生活
拓斗に指示されて翌日のうちに完全に荷物をまとめると、そのままあの夜を過ごしたホテル・アローズのスイートに連れていかれた。
部屋へと続く廊下は、慌てて逃げるように駆けたあの日よりもずいぶんと煌びやかに見える。

あの夜、薄暗がりの中で見た部屋の記憶は不鮮明で、ただ豪華だったとしか捉えていなかった。改めて灯りの下で目の当たりにすれば、足がすくみそうになるぐらいの贅沢さで、普段着の自分がとにかく場違いに思えてならない。

「俺の仕事は数日のうちに終わるから、悪いがそれまでここで過ごしてもらう。もちろん外出は自由だが、まだフェリーチェと決着をつけたわけじゃないし、大人しくしているのが無難かな。足りないものがあればフロントに連絡を入れればいいから」

何不自由のなさそうなこの部屋に、足りないものなど何もないのではないか。私専用として与えてくれた部屋を見回しながら、そう確信した。

「俺が帰ってきたら、今後について話そう」

仕事を取り上げられてしまうと、やることが何も見つからない。出かける気も起きないし、本や映画を楽しめるほどフランス語に明るくない。
それでも音のない空間はなんだか息苦しくて、備え付けられたテレビをつけたままにしていた。

昼食は、あらかじめ拓斗が手配してくれており、部屋でいただいた。それも済んでしまえば、ますます時間を持て余してしまう。もうすぐ帰国するのなら日本の現状を知ろうと、なにげなくネットを見ているうちに、ようやく窓の外が暗くなっていた。

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