囚われて、落ちていく
魔王
「これは、夢?」

都麦が車の窓から見ている光景は、普段起こりうることではない。
刹那が波田を睨みつけ、波田は地面に頭を擦りつけるようにして土下座している。

しかも土下座している波田の頭を、刹那は踏みつけているのだ。
何か話しているようだが、全く聞こえない。

刹那は咥え煙草で、近寄り難い雰囲気だ。
凄まじい威圧感がある。

テレビでしか見ない光景に、都麦は恐怖で震えていた。


一方の刹那━━━━━

「申し訳ありません。一条様」
波田は地面に額をすり寄せて、土下座している。

「お前、謝罪する相手を間違っている」
その波田の頭を踏みつけて言う刹那。

「うぅ……では…君島さ…に、謝罪を……」
「あ?都麦に会わせるわけないだろ?」
「で、では…どう…すれば……」

「謝罪したところで、もう……お前は消え去るしかない」
「消え…去る……?
お、お願…します…助けてく…ださ…」
「命乞いなんかするな…」
一度足を離してしゃがんで髪の毛を掴み、波田の顔を上げさせた。

刹那に頭を押さえつけられていた為、顔が擦り傷や鼻血でいっぱいだ。
「ルール知ってるだろ?」
「え……」

「俺の女に手を出したら、問答無用で地獄行き。
例外はない」

「手を出したんじゃありません。荷物を持ってやろうとしただけです……!」
「でも都麦様は、嫌がってましたよ」
波田の言葉に、笹原が口を挟む。

「……だそうだ。さぁ、地獄におちろ」
刹那はそう言うと、立ち上がり波田を蹴り上げた。

波田は血を噴き出してその場に倒れた。


「━━━━━━━!!!!」
都麦は車の窓からその一部始終を見ていた。

両手で口元を押さえ、震える都麦。
「………」

これは夢。
これは夢。
これは夢!!
必死に言い聞かせる。

そして都麦は耳を塞いで、項垂れた。
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