小さな願いのセレナーデ


「改めて自己紹介します。久我瑛実(えいみ)です。よろしくお願いいたします」
「下里晶葉です。よろしくお願いします」

広いリビングのソファーに、瑛実さんと昂志さんの二人と向かい合って座る。後ろには中年の女性も。家政婦さんだろうか。
さっきから嫌な汗が止まらないし、何とか笑顔を取り繕うことで精一杯だ。


「あとこっちが家政婦のユキさんに、兄の昂志で、何か先生はお兄ちゃんが知り合い?だって言ってたんだけど…」
「昔ね」

何も検索されないように先手を打とう。
「昂志さんとは昔ウィーンでコンサートをご一緒させていただいて、何度か食事もご一緒させていただいたの」
そう言うと「そうなんですね」と彼女の目が輝く。さすがに彼女は、過去の私達の話は知らないようだ。


話を聞いていくと、どうやらここでは兄妹の二人で暮らしてるらしい。だから瑛実さんの実質な保護者は、昂志さんになるんだと。
……と言うことは、私に名前を黙っていたのは、彼からの指示だったのかも知れない。
まぁ改めて彼がまだ結婚していないという事実には少し驚いたが。瑛実さんの独立を待っているのだろうか。
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