身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
仁は要件を済ませると、すぐに店を出ていってしまった。

〝財界の若き帝王〟と呼ばれるだけあって、たくさんの仕事を抱えているのだろう、彼はいつも忙しそうにしている。

椿と両親は深々と頭を下げて、仁を店の外に送り出した。

「椿、京蕗さんもああおっしゃってくれているんだ、頑張りなさい」

父から肩を叩かれたものの、椿の心はすでにここにあらず、仁にどんな着物を着せようかとそればかり考えていた。

モデルのように完璧な容姿を持つ仁を、自分の選んだ和装で彩ることができる。

着物を長年学んできた椿にとっては誇らしいことこの上ない。

それに、椿の隣にいるときは菖蒲が選んだ着物を着たくないというさりげない心遣いが、なによりも嬉しく感じられた。


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