身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「それから、彼女を道具のように扱うのもやめてください。彼女はいずれ京蕗家の人間になるかもしれないのですから、ひとりの女性として丁重に扱っていただきたい」

夕べ『まるで道具だな』と吐き捨てられたことを思い出し、ズキンと胸が痛みだす。

あの言葉は、椿を嘲笑していたのではなく、椿を道具のように扱った父親に対する軽蔑だったのだろうか。

――私の代わりに、怒ってくれている……?

勝手な思い込みかもしれないが、椿は嬉しかった。

「椿さん、頼みがあります」

突然仁に話題を振られ、椿はびくりと背筋を伸ばす。仁の涼やかで剛毅な瞳が椿を射貫いた。

「私の着物を見立ててください。私の所有する着物はすべて菖蒲さんが選んだもの。ですが、貴方の隣を歩くのに、それは着たくない」

思いもよらぬお願いに、頷くことすらできなかった。

むしろ、ドキドキと胸が騒いだ。彼の着物を任せてもらえるなんて、こんなに光栄なことはないと。

「後日、あわせに参ります。見繕っておいてもらえますか」

「は、はい!」
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