体育祭(こいまつり)
「りり、また見てるの? 徳山君」
中学の時からの親友の坂口悠香が声をかけてきた。
「うん」
私、木崎りりはまだ徳山君を見ながら、ぼんやりと頷いた。
徳山君は陸上部の一年生。中距離ランナーだ。
私は彼の走り方が好きだ。本当はきついだろうに、それを面に出さずに、一心に走る。走り終えた後だけ、呼吸を整えるため手を膝につき、肩を上下にゆらす。荒い呼吸にも関わらず、顔は爽やかで、額の汗を拭う姿が様になる。
一つ年下の可愛い男の子。
私が陸上部の練習を見るようになったのはいつからだっただろう。
高校二年に進級するとき、別の学校の彼と別れた。
彼は陸上部の短距離選手だった。
彼は走るのが好きだったようだが、走っている時の彼は苦しい表情だったのを覚えている。
中三のときから付き合いだして、一緒にいれる時間がとても嬉しかった。勉強をしているときでさえも。
彼は陸上の有名な高校に入り、私たちは別々の学校に通うことになった。
最初のうちは待ち合わせをして途中まで一緒に帰ったり、彼の部活を見に行ったりするのが楽しかった。好きだからお互い時間を割く。
でも。
好きだけど、時間を割くのが苦しくなっていった。
きっとまだお互い好きだったと思う。だけど。
「まだりりが好きだよ。だけど、もう会う時間を作るのがきついんだ。りりもそうじゃないかな? もう、俺のために無理する事はないから」
私たちは別れた。
桜の花びらがさらさらと舞い落ちる季節。
涙みたいだ。ああ、泣いているのは私か。