強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
恋が辛い場所
「今日はウフィツィ美術館に行くんだったかしら?」
「はい、そう聞いてます」

 朝、書類を取りに来たカテリーナさんとそんな会話を交わす。

 今日は午前中にウフィツィ美術館に行って、午後からは買い物をする予定だ。


 フィレンツェは革製品が有名だし、あとマーブル紙もある。

 お土産に文庫カバーを何人かにリクエストされてたっけ。
 私もちょっと欲しい。

 そんな風に観光や買い物に思いをはせていると、ワクワクと気持ちが高揚してくる。


 買い物も楽しみだけれど、やっぱり美術館も楽しみだ。

 ウフィツィ美術館は軽く下調べしたけれど、誰もが知る名画もあったりレビューなどを見ても絶賛してる人が多かった。


「あそこにはヴィーナスの絵画もあるものね」
 そう言ったカテリーナさんは私に近付くとケントに聞こえない様に耳うちする。

「あそこのヴィーナスの絵画を見て、彼は自分の女神を探すんだ、なんて夢を見るようになったらしいわよ?」
「え?」

 それだけ言って離れたカテリーナさんはただ微笑む。
 何を思って私にそんなことを言うのか。

 彼女の意図を(はか)りかねる。


 聞き返したかったけれど、カテリーナさんはケントに呼ばれて私から離れて行ってしまった。

< 96 / 183 >

この作品をシェア

pagetop