ちょうどいいので結婚します
エピローグ
 功至は千幸の会社からほど近い場所に自分のオフィスを構えた。まだまだこれからで、本稼働まではいかないがそれなりに忙しく暮らしていた。

 時々、ばったりと出くわすこともあった。
「よう!」
 既に、愚痴を聞いてもらって久しい多華子だった。功至の左手薬指にはキラリと光る指輪があった。いや、何なら多華子に見えるよう心掛けた。
「……久しぶりだけど、相変わらずね」 
 多華子は呆れた視線で功至を見たが、そんなことは慣れっこだった。
「ふふん」
「あれ、指輪? 挙式まだよね?」
 多華子が指さした。
「うん。入籍もまだ」
「何でつけてるのよ」
「待ちきれなくて。挙式の日だけ指輪交換まで外しとく」

 多華子は「あ、そう」としか言えなかった。すると、示し合わせたように向こうから千幸と良一が歩いて来たのだった。それに、
「またかよ」
 と、うんざりした口調で言ったのは良一だった。
「誤解しないで下さい。さっき、たった今そこで会ったとこで……」
 慌てたのは多華子だけだった。千幸も功至も余裕の笑みだ。
「いえ、私たちも今そこでばったり」
「そうだよ。ちー、散々巻き込んどいて報告は親経由だぜ。ひでえの」
 良一は不満を口にしながらも好意的な目を功至に向けた。

「その節は、ありがとうございました」功至も良一に笑顔を向けた。
「いいえぇ、なーんか、俺が追い詰めちゃったみたいで?」

 功至は、うぐっと言葉に詰まった。
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