海とメロンパンと恋
繋いだ手


夜、ベッドに入ってから
携帯電話を手に取った


一度深呼吸してから
メッセージアプリを開く


未読になっている日は
慌てて電源を落とした日で


そこから
一日、一日とスクロールする


桐悟さんからの短いメッセージは
毎日続いていた


途中からは
朝の挨拶から始まって

仕事中に見かけた景色の写真や

食事の写真も添付されて

桐悟さんの一日が手に取るように分かった


そして、必ず一日の終わりに


[明日は声が聞きたい]と

[おやすみ]が並んでいた



毎日電話で話していた夕方には
必ず着信履歴があって

諦めない桐悟さんの思いが詰まっていた


「・・・ごめんなさい」


どんなに送ってみても既読にすらならないなんて
きっと私なら心が折れて諦めていたはず


メッセージを眺めていると
画面表示がズレた


[仕事終わった]


時計の針は天辺で重なっている


久しぶりの返事は


  [お疲れ様でした]


可愛らしさのカケラもないもの


[ありがとう]


それに反応してくれるだけで
こんなに嬉しい


  [ご飯は食べましたか?]

[今夜は会合だったから折詰弁当が出た]

  [そうなんですね]

[胡桃は?]

  [今夜はオムライスでした]

[胡桃が作ったのか?]

  [はい]

[俺も食べたかった]

  [和食じゃないですよ]

[何でも食べられるぞ?]

・・・え、だって

  [和食だけって聞きました]

[あ、それは]

比較的若い子が多い穂高組で
色んなものを食べさせたいという理由に

料理を覚えるのには基本からという流れで和食を指定したという


  [じゃあ嫌いじゃないんですね]

[あぁ]


・・・作ってあげたい

それも二十人分


気持ちは奥に押し込んだはずなのに
桐悟さんの喜ぶ顔が見たい

それに

厳ついさん達にも
また作ってあげたい

そんなことを思ってしまった



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