海とメロンパンと恋





お兄ちゃんとの生活が始まっても
以前みたいに牛若丸の散歩に出かけることもない所為で


折角の街を散策することもなく
引きこもりの毎日を過ごしていた


だってね


灼熱の太陽の所為でアスファルトはメラメラ陽炎が立って
牛若丸は日中は外には出せない


だから、寝る前のお散歩的な感じで
お兄ちゃんと一緒に公園へ行く


食材の買い物も、図書館もお兄ちゃんと一緒だから


こっちに来て一週間も経つのに毎日が単調でつまんない


「胡桃、行くか」


「うん」


今夜も公園を牛若丸を挟んで歩いていると


前方に人影が見えた


「・・・っ」


驚いた私に対して


「チッ」


舌打ちのお兄ちゃん

そして無反応の牛若丸を見て
頭に浮かんだのは

桐悟さんだった



その人影はゆっくり近づいて来て
目の前で止まった

その姿を見てお兄ちゃんは
「明日で良いだろうが」
と悪態をつき


「キッチリ一週間だろ」


桐悟さんは綺麗な顔で笑った


「・・・一週間?」


疑問が口から出た私に


「胡桃を泣かせたペナルティな」


お兄ちゃんはクスリと笑って桐悟さんを見た


あれは私が勝手に泣いたのに・・・


そう口を開こうとしたけれど


「平気だ」


桐悟さんはそれを言わせてはくれなかった


「柚真、少しだけ話をさせて欲しい」


「チッ」


桐悟さんのお願いに舌打ちを返したお兄ちゃんだけど


「一周分だけな」と牛若丸を連れて歩いて行った


「胡桃」


「・・・はい」


「ベンチに座るか」


「はい」


遊歩道脇にあるベンチを指差した桐悟さんは


サッと私の手を引いた


「・・・っ」


腕を引かれたことはあるけれど
手を繋いだのは初めてで


ただそれだけなのに


心臓は壊れちゃうんじゃないかって不安になるくらい暴れているし

手汗は大変なことになっている


それでも・・・


そんなこと、どうでも良いと思えるくらい繋がれた手を離したくない


そのままベンチに腰掛けた桐悟さんは
繋いだ手を離さず


「会いたかった」


三白眼を優しく細めた






















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