鬼麟

4.流される

 迎える時間よりも、過ぎてしまった時間を思い返せば時間が経つのはあっという間だ。私が彼等、狼嵐の手を拒むのを諦めてから早3週間が経っていた。
 私の感覚では、付かず離れずの関係を保っているつもりだ。私が引いた一線に対して気付かないほど、察しの悪い奴らではないと信じたいもので、多少なりとも感じ取っているだろう。
 そんなあやふや毎日の中で、明確な変化といえば、先週から何度もされる蒼の『お願い』だ。
 彼は長い睫毛と大きな瞳を活かし、私を下から覗き込む。揺れた前髪がさらりと肌に伝い、自身の魅力を最大限に引き出す。

「なっちゃん、お姫様になってよ」

 こんなことを毎日、それこそことある事に言われれば、それはもう半ば洗脳近いものになってくる。断るのにも段々と疲れが出てくるし、機械の如く私はそれを呆れの混じった声で返す。

「それは無理だし嫌って言ってるでしょ」

 姫、なんて明らかに危ない。あいつらに知られてしまう可能性が爆発的に上昇し、その心配だけで心労が募り私自身爆発しそうだ。
 それぞれの暴走族には、俗に姫と呼ばれる者がいることがある。もちろん、すべてに当てはまるかと言われれば、かなり稀な方だ。
 姫、と呼ばれるのはその族に護られるべき存在であり、大抵の場合が総長の女であったりし、所謂“寵姫”と呼ばれる存在なのだ。頭の女を護るのは、その下につく者としては絶対であり、もちろんそれは弱点とも成り得る存在だ。
< 64 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop