政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
11.桜の木の下で
 レセプションの最中も、片倉は浅緋を片時も側から離さなかった。

「片倉さん、素敵な方ですね」
「ええ。婚約者なんです」

 色んな人に話しかけられる片倉は、誰かに浅緋のことを聞かれると、必ずそう答えていた。

「それはおめでとうございます」
「ありがとうございます」

 どれだけ歳が上の人でも、片倉は臆さないし、侮るようなことを言われても、笑顔で流す。
 それを見ているだけでも、浅緋はつい、うっとりしてしまいそうになるのだ。

 浅緋はその隣で張り付けたような笑顔を浮かべるだけで、返事すらままならないというのに。

 お客様との話は全部片倉に任せていて、その全てに片倉はそつのない対応を返していた。

「大丈夫ですか?」
 宴もたけなわになってきた頃、片倉が浅緋を思いやってなのだろう、そう声をかけてくれた。

「片倉さん、尊敬しますわ。私、顔が筋肉痛を起こしそうです」

 もう疲労もマックスだったせいか、つい、浅緋がポロリと本音をこぼしてしまうと、ワインを片手にしていた片倉はぷっと吹き出した。

 笑っている片倉の眼鏡の奥の瞳が柔らかく細まってとても楽しそうで、浅緋はどきん、とする。
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