政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「可愛いことを言いますね。あなたが素敵な笑顔なので、皆さんお話したくて仕方ないんでしょう。普段はこんなに話しかけられないんですけどね」

 経済界の中でも注目を集めるほどの資産家である片倉が誰と結婚するのかは、実は注目の的ではあったのだが、本人はそれには気づいていない。

 浅緋には怯んでしまうほどの華やかな世界だった。

 それでも、躾には厳しかった父のおかげで所作には問題ないはずだし、年に何度かはこういう場所にも連れてこられてはいた。
 ただこういう場所が、浅緋にはあまり得意ではないのだ。

 振る舞いが自然に出来ているか、きちんと笑顔になっているか、感じ悪くしていないか、そんなことばかりがとても気になってしまって、人と接するのはもちろん、お食事すら楽しんだことはない。

 ただ片倉と自然に話ができたのはよかった、と浅緋が思った頃だ。

「片倉さん」
 とてもセクシーで華やかな女性が片倉に話しかけてきた。
 身長がすらりと高くて、胸元が大きく空いたドレスを着ている。

「村上部長」
「あら、水臭いわね、菜都と呼んでくださって構わないのに」
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