政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 浅緋がそう言うと、片倉は軽く目を見開く。
 そうして、ふっと笑った。

「そうですか。それはよかった。とても似合っていますよ」

 その嬉しそうな顔はずるくないだろうか?

 朝はあんな風に黙って出てしまって、今日一日浅緋はとても心配したのに、そんな笑顔を向けられたら、どうしたらいいのか分からなくなるくらい、胸がきゅんとしてしまうのに。

 どうしたら、いいんだろう。

 今まで何かをしたいと自発的に思うことはなかった浅緋だ。

 結婚に関しても、おそらくは父の決めた人とすることになるんだろうと漠然と思っていた。

 それはそうで、否定することはできないのだけれど、父に言われたからだけではない気持ちが今、浅緋の中にあると気づいている。

 槙野が言った通りなのだ。
 もう、誰にも何かを指示されるようなことはない。

 浅緋がしたいことをして構わないのだ。
 それは逆を返せば、婚約を破棄することも構わないのだ、ということになる。

 今までの経過を考えて、浅緋は一つの決意を胸に秘めていた。


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