僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
会食
 とりあえず食事は地元組の二人がお勧めの居酒屋に予約を入れてくれていて、そこへ行くことになった。
 居酒屋、と言っても料理もかなり充実しているらしく、何より僕が葵咲(きさき)ちゃんと泊まるために取ったビジネスホテルから徒歩数分圏内というのが有り難くて。

 葵咲ちゃんが、「理人(りひと)が取ったの、商店街のど真ん中のビジネスホテルだからお店とか考えやすかったみたいよ」と言って淡く微笑んだ。
「――?」
 気のせいだろうか。
 僕がこっちに到着してからずっと、葵咲ちゃんの笑顔が何となくいつもと違って見える気がするんだ。
 こう、何か隠していてよそよそしいというか。心配事を抱えていてソワソワしてる感じというか。

 昨夜電話で話した時にはそういう雰囲気は全く受けなかったから、あのあと何かあった?

 正直めちゃくちゃ問い(ただ)したいけれど、塚田夫妻と今から会食だしな、と考えたらさすがに躊躇(ためら)われて。

 会食後、ホテルに戻って二人きりになれたら、ちゃんと聞こう。
 僕はそう心に誓う。

 空港駐車場で修太郎(しゅうたろう)氏のアルファード(愛車)から、葵咲ちゃんの荷物を僕のヴィッツ(レンタカー)に移し替えた。

「とりあえず葵咲(かのじょ)の荷物と僕の荷物、チェックインしてホテルに置いてきます。合流まで、しばし別行動にしませんか?」

 僕は塚田夫妻にそう言うと、待ち合わせのお店『ゆかり屋』の場所を修太郎氏から教えてもらって、一旦ふたりとは別々に動くことにする。
 あちらも僕らも、少しぐらい恋人とふたりきりの時間を持つことが必要だ。

 僕の思惑通り、修太郎氏(彼のほう)も同じ想いだったんだろう。すぐに提案を飲んでくれた。

 うん、計算通り。
< 58 / 332 >

この作品をシェア

pagetop